2026.05.22 コラム
【テックコラム】AI Commerce Search 導入方法 第3回 ~実装編~
AI Commerce Search(旧Vertex AI Search for Commerce)とは
こんにちは、DataCurrent の不破です。
今回は、Google Cloud が ECサイト向けに提供するAIサービス「AI Commerce Search」についてご紹介したいと思います。旧サービス名は「Vertex AI Search for Commerce(略して「VAIS:C」)」でしたが、ちょうど本記事を執筆していた2026年4月下旬に「AI Commerce Search」に変更されました。
ECサイトにおいて、ユーザーが迷わずお目当ての商品を見つけられる環境を整えることは、ショップのファンを増やし、売上を伸ばしていくための第一歩です。昨今の生成AIの普及によって検索の精度が劇的に進化しました。単なる言葉の照合ではなく、検索の背景にあるユーザーの意図や行動履歴を深く理解することで、まさに「いま欲しかった商品」をピンポイントで届けられるようになってきました。
Google Cloud の AI Commerce Search は、長年 Google が培ってきた検索技術と最先端のAI技術を駆使して、まさに上記のようなリッチなEC体験を提供することを可能にします。個々のユーザーにパーソナライズされた、より精度の高い検索体験を提供することで、ECサイトのクリック率やコンバージョン率の向上に貢献することができます。また検索だけでなく、同様に生成AIに下支えされた高度なレコメンデーションの提示も可能です。
本記事では、AI Commerce Search の公式ドキュメント、および弊社の導入ご支援経験に基づいて、AI Commerce Search の検索機能の概要と具体的な実装方法についてご紹介します。
本連載は全5回にわたって解説します。
- 第3回:実装編(★本記事)
※この記事は、2026年4月時点に執筆したものであることをご留意ください。
目次
- AI Commerce Search コンソール画面の設定
a. サービス構成の作成
b. コントロールの設定
ⅰ.サービス提供コントロール
ⅱ.属性コントロール
ⅲ.予測入力コントロール
ⅳ.ファセット/タイルコントロール
AI Commerce Search 検索機能の4つのパフォーマンス階層
AI Commerce Search の検索機能は、「Tier1〜4」の4つの階層でレベル分けされています。上の階層に進むにつれ、より高精度な検索結果が期待できます。各階層には必要なデータ要件が定められており、データ要件を満たすと上位の階層へアップグレードすることができます。現状の検索精度にどのパフォーマンス階層が適用されているか、次の階層に進むために何のデータがどの位必要かなどの詳細を把握するには、AI Commerce Search のコンソール画面(「データ品質」メニュー)から確認することができます。

Tier1:検索クエリ(検索キーワード)と商品の関連性
- 検索クエリと関連性の度合いが強い商品を返却します。
- 最小データ要件:
- 商品カタログ
- テキストクエリ
Tier2:関連性+商品の人気度
- Tier1に加えて、サイト全体で人気のある商品を返却します。
- 最小データ要件
- 検索イベント・詳細閲覧イベントが過去90日間に10万件以上
Tier3:収益の最適化
- Tier2に加えて、サイト全体の収益が最適化されるように商品を返却します。
- 最小データ要件
- 価格情報が登録された商品が全体の95%以上
- 検索イベントと後続のイベント(詳細閲覧・カート追加・購入)の紐づけが過去90日間に25万件以上
- 検索イベントと詳細閲覧イベントの紐づけが過去90日間に25万件以上
- 検索経由で詳細ページが見られた商品が過去90日間に100個以上
Tier4:パーソナライズされた収益
- Tier3に加えて、個々のユーザーにパーソナライズされた商品を返却します。
- 最小データ要件
- AI Commerce Search による検索イベントが過去30日間に10万件以上
- キャッシュされていない AI Commerce Search による検索イベントが99%以上
- 検索APIリクエストと検索イベント間で一致するビジターIDが10%以上
・参考:https://docs.cloud.google.com/retail/docs/data-quality?hl=ja
AI Commerce Search コンソール画面の設定
商品カタログデータをインポートしたら、検索APIを利用するために AI Commerce Search コンソール画面上で下記の設定を行います。
- サービス構成の作成
- コントロールの設定
サービス構成の作成
サービス構成とは、検索結果の生成に使用される一連のコントロール、またはレコメンデーションの生成に使用されるモデルを関連付けるサービス提供エンティティです。つまり、ユーザーに対して検索結果やレコメンデーションを返す際の「ルールやメタデータをまとめたもの」です。AI Commerce Search のシステムは検索やレコメンデーションのAPIリクエストを受け取った際に、このサービス構成を参照して、どのAIモデルを使用し、どのようなルールを適用するかを決定します。

商品カタログをインポートしサービス構成を作成すると、コンソール画面上の「評価」メニューから作成したサービス構成とカタログブランチを選択して、API実装する前に簡易的に検索の動作を確認することができます。例えば検証フェーズでは、サービス提供コントロールを紐づけたサービス構成(例:A)と紐づけていないサービス構成(例:B)の動作を比較したり、異なる商品カタログが紐づくブランチ間(例:ブランチ 0 とブランチ 1)の動作を比較したりすることができます。

(※イメージはサンプルです)
・参考:https://docs.cloud.google.com/retail/docs/configs?hl=ja
コントロールの設定
コントロール設定には、下記の種類があります。
- サービス提供コントロール
- 属性コントロール
- 予測入力コントロール
- ファセット/タイルコントロール
「属性コントロール」は検索やレコメンデーションの基本的な動作に大きく影響しますので、導入前に適宜編集することをお勧めします。「サービス提供コントロール」・「予測入力コントロール」・「ファセット/タイルコントロール」の作成についてはオプションで設定が可能です。「予測入力コントロール」については、検索APIとは別に、予測入力APIを利用する際に設定します。
以下に、各コントロールで設定可能な内容をご紹介します。
– サービス提供コントロール
ユーザーの検索クエリに対して、商品の表示順序や絞り込み、リダイレクトなどの一定のルールを適用するためのコントロールです。1つのサービス構成に最大100個までのルールを同時設定でき、複数の構成で使い回すことも可能です。また、紐づけるコントロールの個数は、Googleサポートに上限緩和申請することもできます。
ブースト/埋め込み
- 条件に合致する商品の表示順位を上げたり、逆に下げたりします。
- 例:
- キャンペーン中の特定のブランド商品を上位に表示する
- レビュー評価の低い商品を下位に表示する
フィルタ
- 特定の条件に合致する商品のみを検索結果に表示させます。
- 例:
- 在庫切れの商品を検索結果から除外する
リダイレクト
- 特定のキーワードが検索された際に、商品一覧ではなく指定したURLを返却します。
- 例:
- ユーザーがカテゴリ名を検索した際に対象のカテゴリTOPページにユーザーをリダイレクトさせる
言語制御
- 類義語・同義語、特定語句の無視、置換などを設定し、検索キーワードの揺らぎを吸収します。
- 例:
- ユーザーが「PC」と検索した際に「パソコン」「ノートブック」もヒットさせる
- 0件ヒット(検索結果なし)を防ぐために、検索クエリに含まれるノイズとなるような特定のワードを無視する
- 検索クエリに含まれる誤字脱字や古い名称を、自社サイトで最適なキーワードに置き換える
商品の固定表示
- 検索結果の特定の位置(1番目など)に、指定した商品を強制的に表示させます。
- 例
- PR商品を検索結果の一番目に表示する
・参考:
https://docs.cloud.google.com/retail/docs/serving-control-rules?hl=ja
https://docs.cloud.google.com/retail/docs/quotas?hl=ja
– 属性コントロール
商品カタログの属性データ(色、サイズ、ブランドなど)を、検索システム内でどのように扱うかを定義する設定です。ここで設定した内容は、検索・レコメンデーション共に全てのサービス構成に適用されます。
インデックス登録可能
- この属性をフィルタリングやファセットとして使用できるかどうかを制御します。
動的なファセッティングとタイリング
- この属性を動的ファセット、またはタイルナビゲーションに使用できるかどうかを制御します。
- 属性を動的ファセット、またはタイルナビゲーションに使用する場合は、「インデックス登録可能」もあわせて有効化する必要があります。
検索可能
- この属性を検索で使用できるかを制御します。このコントロールは、テキスト属性にのみ適用されます。
取得可能
- この属性を検索APIのレスポンスに含めるかどうかを制御します。
- APIのレスポンスとして取得可能な属性値は30個までの上限があり、attributes に含まれるカスタム属性キーも1個にカウントされます。
- レコメンデーションAPIには影響しません。
完全一致
- 主にID検索(product_id、model_id、シリアル番号など)等、検索クエリに完全一致する商品だけを返却させたい場合に使用します。
- この項目を有効にすると、属性値が検索クエリと照合され、完全に一致する場合はその属性値を持つ商品のみが検索結果で返されます。
- 例えば一般的な属性値(例:スニーカー)を持つ属性に対して完全一致を有効化すると、ユーザーがそのキーワードで検索した際に、完全一致する属性値を持つ商品しか検索結果に返されなくなってしまいますので、ご注意ください。
フィルタ可能
- この属性をフィルタリングに使用できるかどうかを制御します。
- レコメンデーションAPIにのみ影響し、検索APIには影響しません。
・参考:https://docs.cloud.google.com/retail/docs/manage-site-controls?hl=ja
– 予測入力コントロール
検索APIとは別に、予測入力APIをサイトへ実装する場合のみ設定が必要です。ユーザーが検索窓に文字を入力している途中で、候補となるキーワードを提案(予測入力)する機能の振る舞いを制御します。
・参考:https://docs.cloud.google.com/retail/docs/completion-overview?hl=ja
– ファセット/タイルコントロール
検索結果の絞り込み機能(ファセット)や、それを視覚的に分かりやすくした「タイルナビゲーション」の表示を細かく調整するためのコントロールです。
・参考:
https://docs.cloud.google.com/retail/docs/facets-overview?hl=ja
https://docs.cloud.google.com/retail/docs/tiles?hl=ja
検索APIの実装
AI Commerce Search に必要なデータをインポートし、サービス構成とコントロールの設定が完了したら、いよいよAPIを実装します。
検索APIの呼び出しイメージ
サイト側では主に、検索や絞り込みを実行し結果を表示するためのUIを制御するフロントエンドの開発と、フロントエンドから受けたリクエストに基づいて AI Commerce Search の検索APIを実行し、APIのレスポンスを加工してフロントエンドに返却するバックエンドの開発が必要になります。
検索APIをリクエストする際は、該当のプロジェクトから発行したサービスアカウントを使用することで認証を通すことができます。検索API・レコメンデーションAPI・予測入力API等の参照系のメソッドのみを利用する場合は「Retail 閲覧者」の権限が必要です。プロダクトAPI・イベントAPI等の書き込み系のメソッドも利用する場合は「Retail 編集者」の権限が必要です。

検索APIの分間リクエスト数の上限緩和
AI Commerce Search では、検索APIやレコメンデーションAPIの1分あたりのリクエスト数に対してデフォルトの上限値(クォータ)が割り当てられています。割り当てが存在する項目の一覧とデフォルトの上限値については、公式サイト「割り当てと上限」から確認することができます。また、「API とサービス」のコンソール画面から「Vertex AI Search for Commerce」で検索し、「割り当てとシステム上限」のタブを開くと、各上限に対して現在どの程度使用されているかが確認できます。

検索APIの分間リクエスト数の上限はデフォルト「300」に設定されており(※環境により異なる場合があります)、これを超えるとAPIが 429 エラー(Quota exceeded)でレスポンスされてしまいます。デフォルトの上限値については、プロジェクト毎に Google サポートへ上限緩和申請が可能ですので、もし自社サイトでデフォルトの上限値を超えるリクエスト数が発生する見込みの場合は、あらかじめ上限緩和申請を行うことをお勧めします。上限緩和の申請方法については「割り当てと上限」にも記載がありますが、上記コンソール画面の各指標の右側にある三点マークから「割り当てを編集」をクリックして行います。また、申請履歴と承認ステータスについては、「IAM と管理」>「割り当てとシステム上限」>「リクエストの増加」タブから確認することが可能です。
・参考:
https://docs.cloud.google.com/retail/docs/quotas?hl=ja
検索APIのユースケース
検索APIの仕様詳細については下部にあるリンクから公式ドキュメントを参照頂ければと思いますが、よく利用されるユースケースをいくつかご紹介します。

APIのメソッドやリクエスト・レスポンスのパラメータ詳細については、以下の公式ドキュメントをご参考ください。
・参考:
https://docs.cloud.google.com/retail/docs/search-vs-recommendations?hl=ja
https://docs.cloud.google.com/retail/docs/search-basic?hl=ja
https://docs.cloud.google.com/retail/docs/reference/rest/v2/projects.locations.catalogs.servingConfigs/search
https://docs.cloud.google.com/retail/docs/reference/rpc/google.cloud.retail.v2#searchrequest
https://docs.cloud.google.com/retail/docs/reference/rpc/google.cloud.retail.v2#searchresponse
https://github.com/googleapis/google-cloud-python
まとめ
以上で、APIの実装まで完了し、サイト上でAIによる検索を動かす準備が整いました。しかし、AI Commerce Search は導入して終わりではありません。リリース後、AIが「今」どのような状態にあるのかを正しく把握する必要があります。
次回、第4回:運用編(コンソール画面の見方)では、AI Commerce Search のコンソール画面上で運用者が「まずどこを、どう見るべきか」を徹底解説します。
最後に
自社に専門人材がいない、リソースが足りない等の課題をお持ちの方に、エンジニア領域の支援サービス(Data Engineer Hub)をご提供しています。 お困りごとございましたら是非お気軽にご相談ください。
本件に関するお問い合わせは下記にて承ります。
株式会社DataCurrent
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