2024.06.27 事例
安心・安全なデータ流通を目的に、ソニーミュージックグループが推進する顧客からの「再許諾」取得
総合エンタテインメントカンパニーのソニーミュージックグループでは、ファンクラブ運営やライブ開催、グッズ販売など多様なファンビジネスを展開している。ファンに対してより良い情報やコンテンツを届けるためには顧客のデータ分析は欠かせない。
一方で、顧客から預かったデータを親会社のソニーグループも含めたグループ内で活用していくためにはいくつかの障壁が存在した。その一つがファンクラブ等におけるプライバシーポリシーの改定と、既存会員からの再許諾の取得である。
この課題を解決すべく、ソニーミュージックグループでは2023年夏頃からDataCurrentが提供する「Consent Update」を自社で運営するファンクラブやECサイトなどへ導入し、データの利活用について会員からの再許諾の取得を進めてきた。本記事では、導入を担当したソニー・ミュージックエンタテインメント アナリティクス本部の長田 洋氏、岸 淳氏に導入の経緯や導入後の効果について話を聞いた。
※本記事は2024年5月時点の内容です

ソニーグループと共同でのデータ利活用構想
―アーティストのファンクラブやEC会員に対してどのような再許諾が必要だったのですか?
岸:これまではアーティストのファンクラブやECサイトを運営するソニーミュージックグループ内でのみ活用していたデータの利用範囲を、ソニーグループ全体へ拡大するための再許諾が必要でした。
データ活用のイメージとしては、ファンクラブやEC会員のデータとソニーグループ内で既に取得しているデータを掛け合わせて、これまで双方で見えていなかったファン層の属性を補完し合い可視化することで、それぞれのファンに適した施策を行っていく、というものです。
古田:先日、ソニーグループの経営方針説明会の中でソニーミュージック共通IDサービスの「ICCOMOTTO(イッコモット)」について取り上げられているのを拝見しました。ソニーグループは、PlayStation Networkといったオンラインサービスをはじめとした、様々な取り組みをされていると思いますが、ICCOMOTTOを含むIDの共通化やグループ内でのデータ統合についても注力されているのでしょうか。
長田:そうですね。共通IDのICCOMOTTOを含め、ソニーグループ全体でIDの共通化を進めていく方針です。グループでの共通IDが主流になっているので、今後それぞれのデータをどのように結びつけて、プライバシーにも配慮しながら、お客様の利便性に貢献できるかという点が、データの利用範囲をグループ全体に拡大するポイントです。
―既存会員に対して変更内容をわかりやすく説明したうえで再許諾を取得するのは手間もかかりますし、関係部署との調整やシステム改修、問合せ対応など準備も必要かと思います。それでも短期間で実現できたのは何がポイントだったのでしょうか?
岸:当初は、CMSの機能の範囲でお客様一人ひとりに対して規約の変更のアナウンスを行い、それに伴う再同意を得てその同意情報を管理していく、というスキームをイメージしていました。
しかし、「Consent Update」では、再同意の取得から同意状況の管理までを一貫して行う仕組みが用意されているということで導入を進めました。また、「Consent Update」を利用することで、サイト側の改修を必要最小限に抑えられたという点が、短期間で実現できたポイントの一つです。
古田:ありがとうございます。規約の変更にあたって、お客様に対してのアナウンス内容など、法務関連の部署やファンクラブ運営チームといった関係部門との調整には時間は掛かりましたか?

アナリティクス本部 岸 淳氏
長田:データをグループ内で共有するということで、各部門との調整については時間を掛けて慎重に検討・議論を重ねました。また、データを共有することで、どのような効果・影響があるのかについても、各部門に対して丁寧に説明をしました。
古田:各部門それぞれの立場での意見も踏まえ、慎重に検討を重ねられたのですね。お客様からの反響や問い合わせに対する事前のリスクマネジメントはされていたのでしょうか。
岸:そうですね。例えば、同意をしないお客様がサイトのコンテンツを閲覧できないようにしてしまうと、お客様の不利益につながってしまう可能性があります。同意の有無に関わらずコンテンツを閲覧できる設計にする、というのも事前に行った対策の一つです。
その他にも、お問い合わせに対する回答の準備や、お客様にわかりやすく、かつ負担の少ないデザインの検討、ということも行いました。

導入イメージ
「Consent Update」を選んだポイント
―既存会員から再許諾を取得するにあたって、なぜ今回のツール導入を決めたのですか?

古田 誠
岸:一つは、先ほども申し上げた「サイトの改修を必要最小限に抑える」ことができる点です。というのも、今回再許諾の取得を行う対象のサイトが多数あったため、すべてのサイトに手を加えるとなるとどうしても負担になってしまいます。その負担をなるべく最小限に抑える、ということがツール選定のポイントの一つでした。
古田:数十以上のサイトで同時に大幅な改修を加えるのはかなり工数がかかりますよね。実際にサイト内の改修は最小限に抑えられたのでしょうか?
岸:そうですね、最小限に抑えることができました。「Consent Update」でお客様の同意状況を管理するために、サイト側にユーザーID(UID)を出力する、という改修は必要最低限として対応しました。
ただ、それ以外はサイトに実装済みのGoogleタグマネージャー上で対応出来たため、非常にコンパクトな改修で済みました。
古田:ツール選定の際には、他のツールとの比較もされましたか?
岸:他のツールとの比較も行いました。ただ、他のツールは導入難易度が高かったことと、サポート体制があまりないという印象でした。一方、「Consent Update」はサポート体制が充実していたことと、サイト改修が必要最小限で抑えられることが大きな決定要因になったといえます。
―ツール導入にあたって苦労したポイントがあれば教えてください。
岸:デザイン設計やその調整には苦労しました。というのも、今回の改修によってお客様がサイトに訪問した際に感じる違和感を最小限に留めたいという課題がありました。不自然な改修をしてしまうと、サイトが乗っ取られたのではとお客様が不安を抱いてしまう危険性があると思います。
今回導入をしたサイトでそれぞれデザインが異なりましたので、統一感を持たせるデザインの調整は最も苦労したポイントです。
古田:確かに細部まで気配りが必要な部分ですね。実際に改修後にお客様からお問い合わせやクレームはありましたか?
岸:データの利用範囲を拡大することに関してのお問い合わせはありましたが、デザインやツールに関するお問い合わせはありませんでした。問い合わせの数自体も想定よりも少なく、無事運用を続けられています。
「Consent Update」導入後の効果
―ツールを導入したことでデータ利活用にどのような効果がありましたか?
長田:まずデータの利活用において、「Consent Update」のようなツールを導入してしっかりお客様から再許諾を得る、という企業として丁寧な対応ができたことが良かった点です。
また効果としては、ソニーグループで取得していたデータと掛け合わせることで、今まで把握できなかった情報での分析ができるようになってきています。
具体的には、ソニーグループが取得しているヘッドホンを購入したお客様のデータとアーティストのファンクラブ会員のデータを掛け合わせた分析を行いました。
ヘッドホンの機種によって聴かれている曲に傾向はあるか、アーティストの好みの傾向があるのか、などソニーグループ内のデータを分析に活用し始めています。
古田:グループ内でのシナジーが生まれつつありそうですね。将来的にはヘッドホンのような自社製品が、どのアーティストと相性がいいのかを導き出して、その製品とアーティストのタイアップ企画を検討する、といったことも面白そうですね。
岸:チャレンジしてみたいですね。ヘッドホンのチームは特定のアーティストを聴いているお客様がどのヘッドホンを使用しているのかをデータ化しています。そういったデータを活用してダイレクトマーケティングを行うことも、今後検討の余地があると思います。
古田:お客様ひとり一人に合った製品訴求を行っていくということですね。
長田:そうですね。一方で、お客様への直接的な訴求は少し慎重にならざるを得ない面も感じています。
古田:おっしゃる通りですね。規約で同意が取れているからと言ってユーザー心理を考えない施策は逆効果となる場合もあると思います。データの活用によって、お客様にとってメリットを感じてもらう提案・施策であることが重要ですね。
―最後に、グループ全体でのデータ利活用について今後の展望などを教えてください。
岸:まずは物販等のオフラインデータと顧客属性データの充実化ですね。オフライン・オンラインに関わらず、いままで取得できていなかったデータを充実させてから、実際の施策に落とし込んでいければと思います。
特にオフラインのデータはこれまで取得できていない部分も多いため、今後力を入れてやっていきたいです。
古田:なるほど。まずは共通IDであるICCOMOTTOにあらゆるデータが集約されていくということを目指したいですね。
岸:なお、今回私たちはデータの利用範囲をソニーグループ全体へ拡大するために、「Consent Update」を導入してお客様一人ひとりから再許諾を得る、ということを行っています。ただ、同じように規約を変更しても、お客様一人ひとりから許諾を得ずとも良しとしてしまうようなケースを目にすることもあります。
ここはそれぞれの企業ごとの判断もあると思いますが、古田さんの見解はいかがですか?
古田:おっしゃる通りです。貴社のような方法ではなく、メールを一斉送信して規約変更の通知だけを行い、その後にサービスを利用した=規約に同意したとみなす、所謂みなし同意で済ませてしまうケースがあるのも現実です。
ただし、みなし同意は企業の対応としてはリスキーでもあります。お客様に対しても親切ではなく、企業として正しい姿勢ではないように私は感じます。規約変更やデータの取り扱いについてお客様からきちんと許諾を得ないといった企業のやり方は、今後問題にもなりかねません。
いずれにせよお客様に対して正しく許諾を得る、というのがあるべき姿だと思います。いずれどの企業も課題として受け止めざるを得なくなるため、早い段階で時間を掛けて取り組まれた貴社はとても良い事例だと思います。企業としてお客様に対してあるべき姿で責任を果たせているのではないでしょうか。
本対談では、企業における顧客データの利活用において、利用用途や範囲の拡大に伴う顧客からの再許諾の取得について、実際の対応策から実施後の効果、また顧客データを取り扱う上での配慮すべき点について議論しました。
顧客データの利活用においては、利用規約や契約書の同意事項に基づいて適切な運用が求められますが、再許諾取得にあたっては企業側で必要なフローが整備されていないことが多く、企業が積極的なデータ利活用を進めるうえでの障壁となるケースも多く見られています。
DataCurrentでは個人情報に関する再同意取得や同意状況の管理を行うソリューションとして「Consent Update」を提供しています。気になる方は是非お問い合わせください。
本記事に関するお問い合わせは下記にて承ります。
株式会社DataCurrent
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