2025.04.10 事例
伊藤園×DataCurrentの挑戦!生成AIを用いた自社独自の検索チャットボットでセキュリティを担保しつつ業務効率化へ
企業における生成AIの導入と活用は急速に進んでいる。伊藤園とDataCurrentは生成AIを活用した社内の業務効率化ツールの開発を2023年9月より開始。2024年8月現在までに3つの検索チャットボットツールを構築し、社内利用による業務効率化の推進に取り組んでいる。
本記事では、導入を担当した伊藤園 情報管理部の永木 公也氏、大高 健一郎氏、大竹 祥子氏に、自社独自チャットボットの開発の経緯や導入後の課題、今後の展望について話を聞いた。
※本記事は2024年8月時点の内容です

セキュリティを担保した自社独自チャットボット開発の背景
―これまでに、3つの社内用の検索チャットボットをリリースしました。生成AIを用いた業務効率化ツールの開発の経緯や狙いについてお伺いします。
永木:以前から、社内の各部門で業務の効率化の要望や、社内問い合わせの自動化の構想がありました。また、生成AIについてはニュースに出ない日はないというくらい話題になっており、注目度の高さを感じています。各企業においても、業務の生産性向上・効率化といった観点で生成AIを導入した様々な事例が出てくるなかで、弊社としてもいち早く導入を進めたいという意向がありました。
大島:生成AIの導入にあたっての懸念点はありましたか?
永木:導入にあたっての懸念点は「セキュリティ面」です。利用者が社内の機密情報を誤って検索してしまわないか、そのデータが外部に漏洩しないか、ツール側で学習に使用されてしまわないか、といった点は事前に担保する必要がありました。

大島:今回チャットボットの構築には、Google Cloud の「Vertex AI」を採用しています。
Google の Vertex AI Agent Builder は、構築したツールのデータを基盤モデルの学習に利用しない仕組みである点と、システムへのアクセス制限等を伊藤園様のセキュリティ基準に合わせて適切に構築することで、導入時の懸念事項であった「セキュリティ面」に対処し、伊藤園様独自のチャットボットの開発を進めました。
※Vertex AI とは
Vertex AI は、Google Cloudが提供する生成 AI を構築して使用するためのフルマネージド統合 AI 開発プラットフォームです。Vertex AI Studio、Agent Builder、150 以上の基盤モデル(Gemini 1.5 Pro やGemini 1.5 Flashなど)にアクセスして活用できます。
―開発した3つの業務効率化ツールのそれぞれの目的や機能について教えてください。

大島:最初に構築したのは『外部ECサイトで自社商品の価格を検索するチャットボット』と『社内規則のドキュメントを検索するチャットボット』でした。この二つを選ばれた理由を教えてください。
永木:『価格検索チャットボット』については、以前から営業チーム、特にECサイト運営担当から要望がありました。これまでは各ECサイトをそれぞれで検索して、商品の店頭価格をリサーチしており、その業務自体をRPAで自動化できないか検討していましたが、ECサイト側のUI変更に対応していけるかが懸念でした。そういったWebスクレイピングのような機能も今回のチャットボットの構築で解決できるのでは、と考えました。
『社内規則チャットボット』については、社内問い合わせを可能な限り自動化しようという構想がありました。こちらについては過去にチャットボットを導入したことがあり、その際はFAQの事前準備やメンテナンスが大変で定着しませんでした。そういった経緯もあり、今回はメンテナンスの手間を掛けずに運用をスタートする、ということが開発のポイントの一つでした。
大島:過去にチャットボットを導入した際は、やはりメンテナンス等の運用面がハードルになりましたか?
大竹:そうですね、運用のハードルは高かったです。チャットボットを導入してみたものの回答精度が低く、FAQのメンテナンスを都度行わなければならず、人が回答するのと変わらない手間になってしまいました。利用者側の信頼も下がり、うまく運用が続きませんでした。
大島:回答精度とそれに伴うメンテナンスについては他社様の課題としても多いですね。2024年6月にリリースした『フリー検索チャットボット』についても教えてください。
永木:『フリー検索チャットボット』については、社内から最新の情報がほしい、という声が多く挙がっていました。というのも、利用するAIによっては学習データが古く、検索結果の鮮度に課題がありました。検索データを基盤側の学習に利用されないようにセキュリティを担保しつつ、生成AIを用いた最新の回答を提示したいという目的で開発したものです。

フリー検索チャットボット
利用者のAIリテラシーの底上げ――導入で見えた課題
―リリース後の社内からのフィードバックや利用状況について教えてください。
大竹:『フリー検索チャットボット』については、フランクな回答が面白い、というフィードバックがありました。
大島:なるほど。実はフランクな回答、という点では裏話があります。もともと初期実装の際は、「Gemini 1.0 Pro」を基盤として採用していました。その際に検索結果の表示速度に課題があったため、その後のバージョンアップで2024年6月にリリースされた「Gemini-1.5-flash」のモデルに変更したところ、レスポンス速度の改善とフランクな回答ができるようになっています。というのも、チャットボットで使用しているキャラクターの個性が生きるように「陽気でお茶目な」という点を学習して導入したことが要因です。裏側で問いかけているプロンプトは全く一緒ですが、基盤の性能が上がったことで実現しています。

永木:びっくりするくらいフランクな回答になったので驚きましたが、いい差別化ができたと思います。
あとは、利用者への周知がまだ足りていないということも感じています。要はチャットボットの使い方を含めた啓蒙活動です。単語だけをチャットボットに入力しているのを見かけるのですが、それだと精度の高い回答は出てきません。
大高:Google検索と生成AIの違いを認識しないといけないですね。生成AIで「有給 日数」で検索しても…となってしまいます。生成AIのチャットボットを利用する際のリテラシーも高めていかないといけないと思っています。
大島:そうですね。プロンプトまではいかなくても問いかけ方・使い方集のようなQ&Aがあるとよさそうです。
大竹:操作方法については用意をしていましたが、作法的な部分についても利用者へのアプローチが必要だと感じています。
大島:他社様でも業務プロセス改善のためにチャットボットを導入しても、利用者が一部に限られており、啓蒙活動に悩まされるケースも多いです。この部分については、まずはチャットボットが気軽にコミュニケーションが取れるツールという位置付けとして利用率を上げつつ、チャットボット本来の役割を果たせるようにしていけると良いのでは、と思います。
また利用者のフィードバックについては、ヒアリングをかけるのも手段ですが、ユーザー単位の利用ログを取得することも効果的です。ログを取得できるようになると、検索クエリがレポートできるようになります。そうすることで、よく検索されるクエリや検索されたけど離脱してしまったクエリというようなデータから、利用状況や利用者のAIリテラシーを把握し、Q&Aや活用テクニック集等の作成に役立てることが可能です。
さらに、組織のIDベースで取得できれば個人や部署ごとで利用状況をダッシュボード化して、全社でのチャットボットの浸透状況の可視化といったことも実現できそうです。
今後の生成AI活用構想
―今後、業務効率化のために検討している施策や改善フィードバックはありますか?

大高:現状の『価格検索チャットボット』では、利便性を向上したいという声が挙がっています。現在は、同じ商品でもサイト毎に検索しないといけない仕様なので、複数のサイトを横断的に検索できるようになると、さらに作業工数の削減につながると考えています。
大島:なるほど、ここは改善の余地がありそうです。
永木:新たな部分では、弊社でいうところのお客様相談室から声が挙がっています。お客様からの相談内容を打ち込むデータベースがあるのですが、現在手作業で問い合わせ内容を分類し、まとめている部分を自動化したいという内容です。
大島:過去に、お客様からのお問い合わせ内容のテキスト要約とレポート作成ができるツールを構築した事例があります。メールや電話などそれぞれでお問い合わせがありますが、テキストと音声の両方のデータを要約して、テキストで出力・レポート化できるというものです。担当者が閲覧するダッシュボードの項目としては、問い合わせ内容・問い合わせ種別・オペレーターの回答・最終着地などを可視化しました。この辺りを参考に取り組めそうです。
永木:音声データのテキスト化、テキストから音声での回答ができるツールの導入の難易度はどの程度でしょうか?
大島:音声をテキストで要約するところまではそこまで難易度は高くありませんが、テキストを音声で回答するというのは少しハードルが上がります。弊社でも取り組んだ事例がありますが、テキストを音声で回答すること自体はできましたが、いかにもAIが話す抑揚のない感じになってしまいました。
永木:現状、お問い合わせを電話でいただくことも多いのですが、休日や営業時間外はどうしても電話対応ができない状況です。そのため、過去のお問い合わせデータを学習した生成AIで、時間外の電話でのお問い合わせに対応できるガイダンスのような仕組みがあると良さそうです。
大島:テキストから音声で回答する。ここはチャレンジしてみたいのでエンジニアと検討してみます。
最後になりますが、生成AI領域は目覚ましい成長を感じています。今後の生成AIの社内活用についての展望をお聞かせください。
永木:できるだけフットワーク軽くどんどん導入していきたいです。セキュリティについてはしっかりポイントを押さえつつ、要件定義に時間をかけすぎずにスピード感重視でチャレンジしていきたいです。
※Google Cloud、Gemini、Vertex AI はGoogle LLC の商標です
本対談では、企業における生成AIを用いた業務効率化ツールの開発について、導入経緯から導入後の社内啓蒙の課題、今後の展望についてお話を伺いました。
生成AIの利活用で、企業の業務効率化や顧客体験の向上が可能になり、ビジネスモデルの革新が進められます。一方で、生成AIの価値を引き出すためには、高品質なデータと適切なデータ環境、さらにセキュリティの担保やガイドラインの整備などリスクへの適切な対処も必要になります。
DataCurrentではデータに基づく生成AI活用を通じて、企業のビジネス成長を加速するための包括的なサポートを提供します。気になる方は是非お問い合わせください。
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